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東京地方裁判所 平成4年(ワ)17061号 判決

原告

池田稔

右訴訟代理人弁護士

長浜隆

齋藤輝夫

谷口正嘉

被告

全国不動産信用保証株式会社

右代表者代表取締役

三輪正輝

右訴訟代理人弁護士

吉田暉尚

被告補助参加人

株式会社奥村組

右代表者代表取締役

奥村俊夫

右訴訟代理人弁護士

阿部三郎

中利太郎

花岡光生

佐藤貴則

右訴訟復代理人弁護士

八代ひろよ

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、三億五〇〇〇万円及びこれに対する平成四年四月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、土地付建物の売買契約において、手付金・中間金合計金五億五六〇〇万円を支払ったと主張する原告が、売主の倒産に伴って契約解除となったうえ、右手付金等の返還が不能となったとして、宅建業法上の手付金等保証を業とする被告に対し、手付金等保証契約に基づく保証金三億五〇〇〇万円の支払いを求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)

1  被告は、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)四一条及び四一条の二が定める、不動産売買取引に伴う「手付金等保証」を業とする建設大臣指定の指定保証機関である。

2  原告と訴外三共設計株式会社(以下「三共設計」という。)とは、平成二年六月七日付で、別紙物件目録記載一ないし三の不動産(以下、全部を総称する場合もしくは特定する必要がない場合には「本件物件」といい、各物件を個別に表現する場合には「物件一」ないし「物件三」と呼称する。)について、代金一七億六五〇〇万円で一括購入・売却する旨の売買契約書を作成した(以下「本件売買契約」という。)。

3  原告は、三共設計に対し、本件売買の手付金・中間金名下に、以下のとおり、合計五億五六〇〇万円を交付した。

(一) 同月一一日、合計三億五〇〇〇万円(物件一につき八六〇〇万円、物件二につき一億二〇〇〇万円、物件三につき一億四四〇〇万円)

(二) 同年一〇月三一日に八六〇〇万円(物件一につき)

(三) 平成三年一月二一日に金一億二〇〇〇万円(物件二につき)

4  三共設計は、平成二年六月二〇日、被告との間で、宅建業法四一条及び四一条の二に定める手付金等の保全措置として、物件一につき金一億五六八〇万円、物件二につき金一億九三二〇万円の保証委託契約を締結した(以下「本件保証委託」という。)。

本件物件の建築請負業者であった被告補助参加人は、前同日、被告に対し、本件保証委託契約に基づく求償債務について連帯保証した。(甲二の1、2、乙六ないし一一、証人永島祐二)

5  三共設計は、平成二年六月、本件売買契約に基づく手付金等の保全措置であるとして、原告に対し、本件保証委託に基づく保証証書二通を交付した。(甲二の1、2、二四、証人永島祐二、原告本人)

6  本件保証委託に基づいて原告と被告との間で締結された手付金等保証契約(以下「本件手付保証」という。)は、契約約款において

(一) 買主が、売主と通謀して仮装の売買契約を締結し、又は売買契約に仮託して、当該売買契約の手付金等の名目で売主に金員を貸与し、その担保として保証証書の交付を受けたとき(同約款一一条一号)

(二) 買主が宅地建物取引業者であるとき(同約款一一条三号)

には、被告の保証金支払を免責する旨を規定している(以下「本件約款」という。甲二の1、2)

7  三共設計は、平成三年四月三〇日と同年五月一日に、二度にわたる不渡事故を起こし、本件売買契約の履行は不可能な状況になった(甲四、一六ないし二〇、二四、証人永島祐二、原告本人)ので、原告は、同年七月二九日、同社に対し、本件売買契約を解除し、手付金等の返還を求める旨の意思表示をした。(甲五の1、2、原告本人)

8  その後、原告は、平成四年四月六日、被告に対し、本件手付保証に基づく手付金等保証債務の履行として、既払いの手付金等五億五六〇〇万円のうち、本件手付保証の範囲内である三億五〇〇〇万円の支払いを求めたが、被告はこれに応じない。(甲六の1、2、原告本人)

二  争点

本件では、本件約款の絶対的免責条項に該当する事実の存否、具体的には以下の二点が争点となった。

1  本件売買契約の実体は、金銭消費貸借契約であるか。

2  原告は宅地建物取引業者に該当するか。

第三  争点に対する判断

一  争点1(通謀虚偽表示)について

被告及び被告補助参加人(以下「被告ら」という。)は、本件売買契約の実体は消費貸借契約であるから、本件約款の絶対的免責条項に該当する旨を主張するが、本件売買契約が通謀による仮装であるとの事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りないというべきである。

もっとも、本件売買契約は、三つの物件を一つの契約書で一括して売買しているうえ、各物件について、土地と建物との代金に占める内訳を明らかにしていないという点において、通常の土地付き建物の売買契約とは明らかに趣を異にするものではあるが、そのことをもって直ちに右契約が通謀虚偽表示であると結論するのは論理の飛躍と言わざるを得ないし(右のような本件売買契約の特殊性は、後述するように、別の文脈で理解することも可能である。)、永島証言及び原告本人尋問の結果が通謀虚偽表示の事実を明確に否定していることをも考え併せれば、被告らの前記主張を採用する余地はない。

二  争点2(宅地建物取引業者該当性)について

1  被告らは、原告は無免許の宅地建物取引業者であるから、本件約款の絶対的免責条項に該当するとして、

(一) 原告は、平成二年六月七日、三共設計との間で、本件物件につき販売委託契約を締結、不特定多数の者に対し、本件物件を販売することを委託し(以下「本件販売委託契約」という。)、三共設計はこれを受けて、不特定多数の買主を相手とする宣伝・募集活動を実施している。

右のような不特定多数人を対象とする販売委託行為は、まさに、宅地建物取引業者しかなしえない行為であるから、原告が宅地建物業者に該当することは明らかである。

(1)物件一 販売委託価格 総額五億円 販売委託戸数 住居一一、店舗一

(2)物件二 販売委託価格 総額七億六〇〇〇万円 販売委託戸数 住居一五

(3)物件三 販売委託価格 総額一一億九〇〇〇万円 販売委託戸数 住居四二、店舗一

(二) また、原告は、本件物件のほか、昭和六二年ころより、少なくとも三八物件(土地面積・延べ二万〇五〇六平方メートル、建物床面積・延べ二万四二七六平方メートル)を、原告名義もしくは原告の経営する会社の名義で購入し、現在までに、そのうち五物件を処分している。

原告の右不動産購入原資は、いわゆるノンバンクからの借入金が中心であったから、原告が右借入金の返済を行うためには、早晩、購入した物件の売却を行う必要があったことは明らかである。したがって、原告は、大量の不動産を購入すると同時に、大量売却をも予定していたものと見ることができるから、「不動産の売買を業として行う者」として宅地建物取引業者に該当する。

旨を主張する。

2  ここで、右被告ら主張事実の存否を検討する前提として、①買主が宅地建物取引業者である場合には、被告の保証金支払が免責されるとする本件約款の絶対的免責条項の趣旨、及び、②本件約款の免責条項における「宅地建物取引業者」の意義の二点について検討しておくこととする。

(一) 本件免責条項の趣旨について

本件約款は、買主が宅地建物取引業者である場合には、当然に、被告の保証金支払義務が免責される旨を規定しているが、宅建業法四一条は、手付金等保全措置によって保護されるべき対象として、単に「買主」とだけ規定しており、文理上、宅地建物取引業者が買主となる場合について、保護の対象から除く旨を明言しているわけではない。

しかし、宅建業法が「購入者等の利益の保護」(宅建業法一条)を主たる目的の一つとして制定された法律であることに照らせば、宅建業法四一条の立法趣旨は、宅地建物取引に関する経験も情報も不十分な一般の消費者を、資力の十分でない宅地建物取引業者との取引による不測の損害から保護するという消費者保護の精神にあるものと解するのが相当であるうえ、宅地建物の取引を専門とする宅地建物取引業者については、取引相手となる宅地建物取引業者の資力の大小は、自らの責任と計算において判断させれば足り、同条の定める強制的な手付金等の保全措置制度によってまで、後見的な保護を及ぼす必要はないものと考えることができる。

更に、同条のみならず、宅建業法全体が「買主」と「宅地建物取引業者」とを対置する構成を採っていることをも考え合わせるならば、同条が、手付金等保全措置による保護の対象として、「買主たる宅地建物取引業者」を想定していないことは明らかと言うべきである。

換言すれば、宅建業法四一条は、宅地建物取引業者については、消費者保護の対象に加える必要のないものとして、同条による手付金等の保全措置の対象から除くことを予定しているものであり、本件約款が「宅地建物取引業者」を保証の対象から除外しているのも、本法の趣旨に沿うものであると解することができるのである。

そして、右のような宅建業法四一条の趣旨からすれば、ある買主が、本件約款の絶対的免責条項に該当する「宅地建物取引業者」に該当するか否かを判断するにあたっては、その買主が宅建業法四一条が保護を予定する「消費者」の範疇に属するか否かという観点を重視すべきであると考えられるのである。

(二) 本件免責条項に定める「宅地建物取引業者」の意義について

(1) 本件手付保証は、本件約款一条においても規定しているとおり、宅建業法四一条の規定する手付金等の保全のための措置として締結されたものであるから、本件約款を解釈するに際しては、要件及び効果の点において、同法の趣旨に沿うように解釈すべきであるのはもちろん、右約款における用語自体も、可能な限り、同法における用語例・定義と一致するように解釈すべきであると考えられる。

そして、宅建業法は、その二条二号において、「宅地建物取引業」について「宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うもの」と定義するとともに、同条三号において、「宅地建物取引業者」について、「第三条第一項の免許を受けて宅地建物取引業を営む者」と定義しているから、本件約款の解釈としても、「宅地建物取引業者」に該たるというためには、「宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うものを営む者」という定義に該当することが最低限必要なことは疑いのないところである。

(2) ここで問題となるのは、宅建業法二条三号が「第三条第一項の免許を受けて」としているところから、本件約款の解釈としても、「宅地建物取引業者」に該たるというためには、宅地建物取引業の免許を受けた者である必要があるのではないか、という点である。

しかしながら、右の点を判断するにあたっては、宅建業法が、まず、包括的に宅地建物取引業を要免許行為とし(三条一項)、無免許行為については刑罰をもって禁止するという厳しい態度(一二条一項、七九条二号)で臨んでいることを理解しなければならない。すなわち、同法は、無免許の宅地建物取引業者は存在させないという前提のもとに成り立っている法律であり、同法が、宅地建物取引業者の定義として免許業者のみを規定しているのも、右のような前提を採ったことによる結果に過ぎず、無免許業者の存在を前提に、無免許業者と免許業者との間に区別を設けた趣旨ではないと考えられるのである。

とすれば、本件約款を解釈するにあたり、宅建業法二条三号の定義規定を根拠に、「宅地建物取引業者」とは免許を取得した業者に限られるとの解釈を行わなければならない合理的な根拠はないから、「宅地建物取引業者」に該当するか否かは、専ら「宅地建物取引業(同法二条二号)を営む者」に該当するかという実質的な観点から判断すべきであると言うことができる。

更に、実際上から見ても、仮に、本件約款にいう「宅地建物取引業者」に無免許業者が含まれないとすると、宅建業法が厳罰をもって禁止している無免許業者が、手付等保証の場面においては、免許業者よりも手厚く保護されてしまうという不公正な結果を招来することになるが、右の結論が妥当でないことは言うまでもない。

結局、本件約款における「宅地建物取引業者」とは、免許業者のみならず、無免許業者も含まれ、これに反する原告の主張は採用できない。

3  以下、原告が、本件約款にいう「宅地建物取引業者」に該当するか否かを判断する。

(一) 当事者間に争いのない事実及び証拠を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(1) 原告ないし原告が代表取締役を勤める法人は、複数の金融機関から多額の不動産購入資金を借り入れ、ピーク時である平成二年の夏過ぎころの時点においては、その借入残高の総額は六〇〇億円以上に上った。

右資金によって、原告ないし原告が代表取締役を勤める法人が、購入した不動産の数は約一一〇、その代金総額は一〇〇〇億円を超えていた。(甲二四、原告本人)

(2) 原告と三共設計との本件売買契約は、三物件を一つの契約書で一括して売買しているうえ、各物件について、土地と建物との代金に占める内訳が明らかにされていない。(甲一)

(3) 原告と三共設計とは、本件売買契約の締結と同時に、平成二年六月七日、本件物件につき、以下の内容の本件販売委託契約を締結、不特定多数の者に対し、本件物件を販売することを委託した。

① 物件一 販売委託価格 総額五億円 販売委託戸数 住居一一、店舗一

② 物件二 販売委託価格 総額七億六〇〇〇万円 販売委託戸数 住居一五

③ 物件三 販売委託価格 総額一一億九〇〇〇万円 販売委託戸数 住居四二、店舗一

(4) 三共設計は、平成二年七月ころから同年一一月ころにかけて、本件販売委託契約に基づく不特定多数人に対する販売先募集活動として、工事現場に分譲用の看板を掲示するとともに、物件一及び二についての販売用パンフレットを作成したり、モデルルーム設置を準備したりするなどの行為を行った。(乙六二ないし六四、六五の1、2、丙一、証人永島祐二、弁論の全趣旨)

(5) 原告は、その保有する不動産を、関連会社に賃貸することによって賃料収入を得ていたが、平成二年当時において、原告の賃料・保証金等による収入は年間約四億二二〇〇万円に過ぎず、不動産購入資金のための借入金利子である年額約一五億五〇〇〇万円には遠く及ばなかった。(甲三二の1、三六の1ないし4、原告本人)

(二) 以上の事実によれば、原告は、本件物件について自ら実質的な売主となって不特定多数人への販売委託行為に着手したものと認められ、かつ、取得した大量の不動産を、単に賃貸目的で保有するに止まらず、借入金返済等の必要に応じ、機を見て売却する意図を有していたものと推認できるから、同人が、宅地もしくは建物の売買を業とする者として、本件約款にいう「宅地建物取引業者」に該当することは疑い得ないところである。

特に、後者の点は、原告が、大量取引による専門的な経験を有していたことを意味するから、「消費者保護」という宅建業法四一条の前記趣旨に照らし、原告の要保護性を否定すべき根拠として重要である。

(三) この点、原告は、本件販売委託契約は、本件物件の賃貸が上手くいかなかった場合の保全措置に過ぎず、また、同契約は「原告が販売の委託を決定した場合に、原告は本件物件の販売を委託し、三共設計はこれを引き受けるものとする」旨を定めるに過ぎないところ、原告は右委託決定を行っていないから、本件販売委託契約は発行していない等と主張するとともに、三共設計が行ったとされる販売募集行為は同社の単独行動であって、原告の指示によるものではない旨を述べて、原告による不特定多数人に対する販売委託着手の事実を否認する。

しかし、前示のとおり、三共設計が、本件販売委託契約締結後である平成二年七月ころから、実質的な販売募集活動に着手していたことからすれば、他に特段の事情のないかぎり、三共設計による右販売募集活動は本件販売委託契約に基づく行動であると認めるのが相当である。なお、右販売募集活動に際しては、原告ではなく、三共設計が「売主」と表示されているが(乙五七)、宅地建物取引業者の免許を有しない原告が不特定多数人に対する「売主」となること(これが、まさに本件販売委託契約の内容である)が明らかに宅建業法に違反するものであることに鑑みれば、いわゆる名義貸しによる脱法行為として、三共設計が表示上の「売主」となることも十分に考えられるところであり、右表示の事実をもって、前記特段の事情に該たるものと言うことはできない。

また、確かに、本件販売委託契約には、「原告が販売の委託を決定した場合に」との限定文言が付されているが、本件売買契約の売値を低額に約定させられた三共設計が一定の利益確保のために、本件販売委託契約を、いわば見返りとして締結したものであり、実際に右契約に従った販売計画が進行していること(乙五七、七五、証人永島祐二、原告本人、弁論の全趣旨)が認められ、この点を考慮すれば、原告の「決定」がなければ、三共設計が委託販売による利益(手数料収入)を得られないというのは不自然であって、本件販売委託契約締結行為自体が、前記文言にいう販売委託決定を兼ねていた(証人永島祐二)と見るのが相当である。原告本人供述のうち、右認定に反する部分は信用することができない。

そのうえ、本件売買契約締結に際し、原告が、物件購入価格中の土地価格と建物価格の内訳に格段の注意を払っていなかった事実(甲一、原告本人)は、賃貸用不動産として本件物件を長期的に保有し続けることを前提とした買主の態度としては不可解な態度と言わざるを得ず(賃料設定の観点からも、税法上の減価償却の観点からも、建物の正確な価格を知っておくことは不可欠であると考えれる)、結局、原告は、本件物件を本件販売委託契約の対象物件として認識しており、少なくとも第一次的には、長期保有の意図を有しなかったものと認めるのが相当である。

以上を総合すれば、原告が、三共設計に対し、本件物件の不特定多数人に対する販売を委託し、それに基づいて、前記認定のとおり三共設計が販売募集活動を開始した事実を十分に認めることができるから、右の事実だけを取っても、原告を本件約款上の「宅地建物取引業者」と認定できるものと言うべきである。

(四) また、原告は、原告による大量の不動産取得は専ら賃貸用物件とするためのものであって、将来的にも、不動産を売却処分する意図は全く有していなかった旨を述べて、原告は、「宅地もしくは建物の賃貸を業として行う者」ではあっても、「宅地もしくは建物の売買を業として行う者」ではないから、「宅地建物取引業者」に該当しない旨を主張する。

しかし、平成二年の時点で、原告が「不動産賃貸業」を営んでいた事実は認められるものの、前示のとおり、右事業は、不動産取得のための金利負担に比べ、賃料等による収入が三分の一にも満たないという極端な赤字であり、当時、具体的に差し迫った必要があったかどうかはともかく、客観的に見て、借入金返済の必要に応じ、適宜手持ちの不動産を売却処分していくことが右事業の前提とされていたことは明らかと言うべきである。原告本人は、株式投資による収入によって借入金は適宜弁済していく予定であり、不動産を処分する意図は皆無であった旨を供述するが、仮に、原告が短期的に株式投資によって利益を得ていた事実(甲三四の1ないし8)が認められるとしても、いわゆるバブルの崩壊の例を持ち出すまでもなく、株式投資による収益が不安定なものであることは自明の理であるから、原告本人の前記供述は客観的な裏付けを欠くものと言わざるを得ない。換言すれば、原告自身の希望的観測はともかく、原告の営む事業の客観的性質自体から、同事業は、所有する不動産の売却処分を組み込んで運営されていたものと認めるほかはないものである。

そして、原告が、保有する大量の不動産について、副次的にせよ、売却処分の意図を有していたものと認められる以上、その取得した不動産の大量性と相まって、原告は、宅地ないし建物の売買を業とする者、すなわち、本件約款上の宅地建物取引業者であると認定できると言うべきである。

(五)  以上のとおり、原告は、本件約款上の「宅地建物取引業者」に該当するものと言えるから、絶対的免責条項(本件約款一一条三号)に該当する旨の被告らの抗弁には理由がある。

三  よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官澤田三知夫 裁判官村田鋭治 裁判官早田尚貴)

別紙物件目録

一 物件一

1 土地

所在 仙台市太白区八木山緑町

地番 二番二三六

地目 宅地

地積 324.88平方メートル

2 建物

所在 仙台市太白区八木山緑町二番地二三六

種類 店舗・居宅

敷地面積 324.88平方メートル

建築面積 192.70平方メートル

延床面積 966.64平方メートル

総戸数 住居一一戸、店舗一戸

二 物件二

1 土地

所在 仙台市太白区八木山緑町

地番 二番四三

地目 宅地

地積 626.27平方メートル

2 建物

所在 仙台市太白区八木山緑町二番地四三

種類 共同住宅

敷地面積 626.27平方メートル

建築面積 309.58平方メートル

延床面積 1414.69平方メートル

総戸数 住居一五戸

三 物件三

1 土地

(一) 所在 山形市緑町一丁目

地番 三番八

地目 宅地

地積 873.37平方メートル

(二) 所在 山形市緑町一丁目

地番 三番二四

地目 宅地

地積 132.23平方メートル

(三) 所在 山形市緑町一丁目

地番 三番二九

地目 宅地

地積 16.54平方メートル

2 建物

所在 山形市緑町一丁目三番地八、同番地二四、同番地二九

種類 店舗・居宅

敷地面積 1022.14平方メートル

建築面積 508.10平方メートル

延床面積 2818.65平方メートル

総戸数 住居四二戸、店舗一戸

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